2020/3/7 名古屋ウィメンズマラソン2020
注目選手C初マラソンで期待の佐藤早也伽
マラソンの適性を感じさせる練習とメンタル面とは?

 3月8日に行われるMGCファイナルチャレンジ女子最終戦の名古屋ウィメンズマラソン。松田瑞生(ダイハツ)が1月の大阪国際女子マラソン優勝時にマークした2時間21分47秒を上回れば、東京五輪代表が内定する。
 初マラソンで最も期待されているのが佐藤早也伽(積水化学)だ。昨年2月の全日本実業団ハーフマラソンに1時間09分27秒の自己新で優勝。駅伝などでもレース終盤で必ず粘りの走りを見せてきた。初めてのマラソン練習は、予定通りにできなかったところもあったが、予想以上の走りで野口英盛監督を驚かせることが何度もあった。
 前日(3月7日)のテクニカルミーティングでペースメーカーの設定は、第1が5km毎を16分40秒(1km毎3分20秒)、第2が5km毎を17分05秒(1km毎3分25秒)と決まった。
 佐藤は当初、第2に付いて2時間25分前後を狙うつもりでいたが、レース2日前に先輩メダリストらの話も聞き、第1ペースメーカーの集団で走ることも考え始めた。

初マラソン日本歴代30傑
順位 記録 選手名 所属 年月日 大会 着順 年齢
2.21.36. 安藤友香 スズキ浜松AC 2017/3/12 名古屋 2 22
2.21.51. 坂本直子 天満屋 2003/1/26 大阪 3 22
2.22.44. 松田瑞生 ダイハツ 2018/1/29 大阪 1 22
2.23.07. 関根花観 JP日本郵政グループ 2018/3/11 名古屋 3 22
2.23.11. 渋井陽子 三井海上 2001/1/28 大阪 1 21
2.23.30. 小崎まり ノーリツ 2003/1/26 大阪 5 27
2.24.19. 原 裕美子 京セラ 2005/3/13 名古屋 1 23
2.24.32. 清田真央 スズキ浜松AC 2016/3/13 名古屋 4 22
10 2.24.33. 一山麻緒 ワコール 2019/3/3 東京 21
2.24.43. 加納由理 資生堂 2007/1/28 大阪 3 28
10 2.25.09. 桑原 彩 積水化学 2016/3/13 名古屋 6 23
11 2.25.35. 野口みずき グローバリー 2002/3/10 名古屋 1 23
12 2.25.40. 赤羽有紀子 ホクレン 2009/1/25 大阪 2 29
13 2.25.46. 上原美幸 第一生命 2018/9/16 ベルリン 9 22
14 2.25.51. 中村友梨香 天満屋 2008/3/9 名古屋 1 21
15 2.26.02. 小川清美 京セラ 2005/3/13 名古屋 5 23
16 2.26.05. 田中智美 第一生命 2014/3/9 名古屋 5 26
17 2.26.13. 高島由香 資生堂 2018/4/8 パリ 7 29
18 2.26.19. 尾崎好美 第一生命 2008/3/9 名古屋 2 26
19 2.26.19. 田中華絵 第一生命 2017/1/29 大阪 3 26
20 2.26.26. 小鴨由水 ダイハツ 1992/1/26 大阪 1 20
21 2.26.27. 安部友恵 旭化成 1993/1/31 大阪 2 21
22 2.26.27. 鈴木博美 リクルート 1996/1/28 大阪 2 27
23 2.26.46. 前田彩里 佛教大 2014/1/26 大阪 4 22
24 2.26.54. 松岡範子 スズキ浜松AC 2011/4/17 ロンドン 16 31
25 2.26.55. 扇 まどか 十八銀行 2008/1/27 大阪 5 24
26 2.26.58. 永尾 薫 ユニバーサルエンターテインメント 2011/2/20 横浜 4 21
27 2.27.02. 松野明美 ニコニコドー 1992/1/26 大阪 2 23
28 2.27.08. 藤本彩夏 京セラ 2017/2/19 東京 19
29 2.27.13. 坂田昌美 京セラ 2006/1/29 大阪 4 21
30 2.27.21. 岩出玲亜 ノーリツ 2014/11/16 横浜 3 19
※万が一漏れがありましたらご指摘ください

「完全に足が止まったことはない」
 佐藤の初めてのマラソン練習で、マラソンの適性を感じられた点があったのか。その質問に対し野口英盛監督は、次の点を挙げた。
「予定していたメニューの変更はありましたが、40km走、35km走、30km走などで足が完全に止まってしまうことはありませんでした」
 具体的なタイムまでは明かしていないが、野口監督が指導したこれまでの選手と比べても、最後の5km、10kmは速いタイムで上がっている。フィニッシュ後も倒れ込んだりしないで、「前半は(遅いペースで)リズムがとりづらかったです」と野口監督に感想を話したりした。
 ポイント練習でへとへとになり、つなぎの練習ができないケースも耳にするが、その点でも佐藤は余力があった。
「間の練習も、最初はどこまでできるか予測できなかったのですが、朝練習も夕方のジョグもしっかりできていました。走るのが好きなこともあるのでしょうけど、100〜120分のジョグも必ず、120分はやっていました」
 40km走などを何本も行うことはできず、「距離、距離」という感じで追い込むことはできなかったが、「距離とスピード」という組み合わせで、「余裕を持てる範囲」でマラソン練習を続けてきた。

自身に対しての負けず嫌い
 トラックや駅伝などではスピードだけでなく、メンタル面の強さも野口監督は感じていた。
「優しそうな顔をしていますが、最後は顔をぐちゃぐちゃにして粘ります。ものすごい負けず嫌いですね」
 佐藤の場合、ライバル選手に対しての負けず嫌いというより、自身に対しての負けず嫌いなのだという。
「自分に負けたくない、自身の立てた目標は必ず超えていきたい。そういう頑張り方をしているように見えます。誰かに勝ちたい、という意識の仕方はしていないかもしれません」
 その例が、昨年11月のクイーンズ駅伝だった。3区で16位と、想定を下回る位置でタスキを受けた。8秒後にスタートした前田穂南(天満屋)に追いつかれたが、佐藤は終盤で前田を8秒引き離し、34分55秒で区間3位を分け合った。ちなみに区間賞は堀優花(パナソニック)で34分36秒、区間2位は鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)で34分42秒だった。
 佐藤はトラックの実績では前田より上だが、2カ月前のMGCで圧勝して五輪代表を決めた前田が、駅伝の走力や選手の格という部分で上だった気がする。追いつかれたときに前田の後ろにつく選択肢もあったが、佐藤は横を並走したり前に出たりしていた。
「相手が前田さんということに関係なく、チームが目標を達成するためには自分のところで行くしかない、という気持ちで走っていたのだと思います。付いていってどうする、という気持ちではなく、単純に速く走りたいのでしょう」
 佐藤独特の負けず嫌いは、マラソンの後半でも自分のリズムでどんどん行く走りになって現れるのではないか。

マイナス要素は12月の練習ができなかったこと
 だがクイーンズ駅伝のあと、ヒザに痛みが出てしまった。「のんびりとでも脚づくりをやりたかった時期ですが、それができませんでした」と野口監督。
 本格的なマラソン練習は1月の全国都道府県対抗女子駅伝(9区区間6位。宮城県チーム2位)後からで、40km走は2本予定していたが、2本目は35km走に変更した。それでも30km走・ジョグ・3km+2km+1km・ジョグ・30km走と、5日間に2本30km走を行うなど、密度の濃い練習を行った期間もあった。
「1月の走行距離は900kmを超えたと思いますが、やった分、しっかりと跳ね返ってきました」
 野口監督の言う“跳ね返ってきた”という言葉は、しっかりと成果につながったという意味だ。
 しかしその反動で、「2月の合宿では疲労も出て、距離走の距離を短くしたりした」(野口監督)と言う。思い切りマラソン練習ができたわけではなかった。佐藤本人も「マラソン練習をやった感じがないんです」と、レース2日前の取材に答えていたという。
 だがこれは、「2回目以降にやることを残す」という意味で、野口監督にとっては計算の範囲内のことだった。
「マラソン練習を“10”はやっていません。近年多くのチームが行っている負荷の大きい変化走(30kmなどの距離をペースを何度も変えて行う)も、今回は行っていません。だから名古屋ウィメンズの結果が良くても悪くても、“次も頑張ろう”となる。そうなってほしいと思っています」

第1ペースメーカーに付くのか、第2か
 そのために名古屋をどう走るか。レースでは一歩も引かない強気の走りをするが、佐藤は高校も大学も世代トップだったわけではなく、強気一辺倒というわけでもない。初マラソンの2時間25分も、自分に合った目標だと考えていたのだろう。
 だが昨年はハーフマラソンだけでなく、4月に10000mで31分59秒64、5月に5000mで15分27秒47と自己新を連発。トラックで日本トップレベルのスピードを身につけた。本人はどこまで自覚できたかわからないが、マラソンへの適性を感じさせる部分が練習中にも明確に現れた。
 野口監督は前日のテクニカルミーティングの後にもう一度、佐藤と話し合う予定だ。
「中間点を70分20〜30秒のペースなら、25kmまでは今回のメンバーの中でも遜色なく走れると思います。昨年の東京マラソンもペースメーカーとして、15kmまで16分40秒ペースで走っています(ワコールの一山麻緒、天満屋の前田穂南と同じ集団)。ただ42.195kmとなると、経験の部分でどうなるかわかりません。2時間25分を狙うなら第2ペースメーカーに付いて確実に刻んで、最後に上げる走り方になります。本人の性格的にも、その走り方が合っているでしょう。ただ、4年に一度の五輪選考会で先頭集団に付くことで、得るものもあるはずです」
 佐藤はMGCシリーズを走っていないので、仮に2時間21分47秒を上回っても五輪代表にはなれない。代表を気にしないで走ることができるので、自由な選択ができる。確実にまとめる方が、自身の次につながるのか。五輪選考の先頭集団を経験する方が、今後のマラソン人生にプラスとなるか。
 佐藤の選択が、今年の名古屋ウィメンズの注目点の1つだろう。第2につけば終盤の驚異的な追い上げが期待できる。第1につけば、「ひょっとする」(野口監督)ことが起きるかもしれない。


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